- 2011-05-15 Sun 10:18:55
- 博物館・美術館
そもそも私は、東ヨーロッパのデコラティヴな様式が好き、といっておきながら、歴史的な背景に詳しいわけではない。歴史のことなら、イギリス中世が一番の守備範囲。なので、ハンガリーのジュエリーの歴史など、全く知らない。ただ、時折、大英博物館やV&Aで、エナメル使いの手の込んだジュエリーに「17世紀、ハンガリー製」などという表記を見かけるので、ハンガリーのジュエリーの技術が高度なものであったことを、おぼろげに知っている程度。
今回、ブダペストに滞在して、博物館マニアの私は、もちろん、その何日かを博物館三昧にあてたわけだが、仕事がら工芸関連の展示を主に見て回った。その中で、驚かされたのが、莫大な量のハンガリアン・ジュエリー、それも、高度にデコラティヴな物。17世紀の収蔵品が、最も特徴的で目に付くのだが、今回は「前菜」ということで、16世紀以前のジュエリーのイメージから始めてみる。
今回のイメージは、ハンガリー国立博物館(Hungarian National Museum)より。

Monomachos crown - represents the emperor Constantine IX Monomachos( 1042-56),
his empress Zoe, her sister Teodra
ハンガリアン・・・などという概念ではなくて、これはまだビザンティン(東ローマ)帝国のクラウン。
コンスタンティノス9世モノマコスのクラウンで1042年ごろの物。
クロワゾネエナメル彩で、このままの形でクラウンであったというよりは、
クラウンのパネル部分だけが現存しているものと思われている。

パネルの一枚ずつを撮って、ポストプロセスで合成。
左右は皇后ゾエと、その妹テオドラ、その横で踊る娘達は「真実」と「謙譲」の象徴で、
最後に聖ピーターと聖アンドリュ-が描かれている。
このクロワゾネ・エナメルはフランスのリモージュ産が最も有名だが、ビザンティン期のジュエリーの典型的な手法の一つ。

Funeral crown of the queen, Anna of Antioch - Found from the graves of Béla III (1172-96)
12世紀のハンガリー王べラ3世のSzékesfehérvár墳墓から発掘された、
王妃アニェス・ド・シャティヨン(アンナ・オブ・アンティオキア)の、葬儀用クラウン。
細かいシードパールをワイヤーで留めつけるのも、ビザンティン・ジュエリーでよく見かけられる手法。
近頃、私も時たま、自分のジュエリーのデザインに取り入れている^^。

同じくSzékesfehérvár墳墓から発掘されたブレスレット。
これはパール使いとエナメルで、とてもビザンティン的なスタイル。

同墳墓より出土のリング。
グラニュール加工(ゴールドの粒々を溶接して模様にする)も古代から、12世紀ごろまでよく使われた手法。
このクラウン型のリングのデザイン、現代でも使える・・・よく売れそうなデザイン(笑)。

12-13世紀のブローチ。
鳥や花等、細かい細工が特徴的。後の「超デコラティヴ」なハンガリアン・ジュエリーの片鱗がすでにうかがわれる(!?)

Funeral crown from the Margaret Island,Hungarian, second half of the 13c
ブダペストのドナウ河中洲、マーガレット島のドメニコ会修道院廃墟から、発掘された13世紀後半の葬儀用クラウン。

いろいろな角度から撮ってみた。

あまりメジャーでない展示物には、マジャール(ハンガリー)語の表記しか付いていない。
ゆえに・・・これが何か全く不明。
13-14世紀のMorse(モース、聖職者のガウンを留めるクラスプ)ではないかとみている。
それにしても・・・ここまでコテコテの装飾の付いたモースは始めて見た・・・。

それも、一つではなくて・・・、

3つも・・・。

ジュエリーではないが、金属工芸品、Chalice(チャリス、教会で使用されるゴブレット)の装飾も、
折り重なるような装飾・・・。

ディティール。
これをみると・・・いかに当時のハンガリーの置かれていた「ビザンティン由来」の文明・技術が、
高度に発達してたものかがよく解る。
当時は、イギリス、フランス等の旧西ローマ帝国領は「田舎」。ジュエリーにしても「素朴」だとすら感じてしまう。

14世紀のクラウン。これも背景等(葬儀用のものだったのか・・・など)は、不明。

15世紀の聖マーティンのバッジ。
裸同然の物乞いに、自らのマントを剣で裂いて半分分け与えたというシーン。全部あげてしまっちゃー、まずかったのかな?あ、冬で自分も寒かったからか・・・?(笑)などと・・・くだらないツッコミをいれてしまうが・・・。
この聖人さんは現ハンガリーのパンノニア出身なので、ハンガリーとは縁が深い。後年、フランス、トゥールーズの司教として活動し没するので、このバッジ上では司教冠をかぶっている(様に見える)。しかし・・・マントを与える一件は、彼がまだ若き軍人だった時の話。(あ、また、余計なツッコミ・・・)。ともかく・・・・、このバッジというのは、巡礼の記念に聖地で買ってくる「おみやげ物」で、プラスターの鋳型に、錫の合金を流して、鍍金をかけたもの。当時の「量産品」なので、いまでもよく発掘されるとか。

再び「ゴージャス」な方のジュエリーに戻って、これは16世紀のペンダント。
このペンダントは、ルネッサンス・スタイル・ジュエリーの典型。
ハンガリーでは15世紀、マーチャーシュ1世(I. Mátyás)の時代に、彼の二度目の后がナポリ王女だったことから、
イタリア・ルネッサンス文化/様式が、ハンガリーに導入されていったそうだ。
しかし、16世紀にはBattle of Mohács(モハーチの戦い)に敗れたハンガリーは、
ブダペストをオスマン・トルコに占領されることになるのだが・・・。

これも、オパール使いが珍しいが、16世紀のルネッサンススタイル。
裏づけはないが・・・このオパール使い、オスマン・トルコの影響かもしれない。
トルコのジュエリーに、オパールをよく見かける・・・様な気がするので。

ジュエリーではないが・・・1526年のモハーチの戦いで、
20歳の若さで戦死するラヨシュ2世(II. Lajos、英語読みだとLouis,ルイス2世)。
Order of the Golden Fleece(金羊毛騎士団)のチェインを着けている。

16世紀のクラスプ。
ハンガリーの男性貴族のコスチュームには、毛皮のマントがつきもので、
そのマントを留めるのに、デコラティヴなクラスプを使う。
なので、「クラスプ」がジュエリーの中に、頻繁に現れる。これもその一つ。

また別の、16世紀クラスプのディティール。なんとも・・・エキゾティックだな・・・。
次回は、「メイン」の17世紀ジュエリー。ほんとに超派手・・・、お楽しみに。
ハンガリー国立博物館(Hungarian National Museum)
住所:1088 Budapest, Múzeum krt. 14-16
開館:10am~6pm (月曜日 閉館)
入場料: 大人 1100HUF(£3.7)、 子供 550HUF(£1.9)、写真撮影料 2500HUF(£8.3) 2011年春現在。
*撮影料が入場料の倍以上!! しかし、私の場合値段の価値は充分あった。
追加料金取られても、写真を許可してくれるハンガリーの博物館に感謝!!
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今回、ブダペストに滞在して、博物館マニアの私は、もちろん、その何日かを博物館三昧にあてたわけだが、仕事がら工芸関連の展示を主に見て回った。その中で、驚かされたのが、莫大な量のハンガリアン・ジュエリー、それも、高度にデコラティヴな物。17世紀の収蔵品が、最も特徴的で目に付くのだが、今回は「前菜」ということで、16世紀以前のジュエリーのイメージから始めてみる。
今回のイメージは、ハンガリー国立博物館(Hungarian National Museum)より。

Monomachos crown - represents the emperor Constantine IX Monomachos( 1042-56),
his empress Zoe, her sister Teodra
ハンガリアン・・・などという概念ではなくて、これはまだビザンティン(東ローマ)帝国のクラウン。
コンスタンティノス9世モノマコスのクラウンで1042年ごろの物。
クロワゾネエナメル彩で、このままの形でクラウンであったというよりは、
クラウンのパネル部分だけが現存しているものと思われている。

パネルの一枚ずつを撮って、ポストプロセスで合成。
左右は皇后ゾエと、その妹テオドラ、その横で踊る娘達は「真実」と「謙譲」の象徴で、
最後に聖ピーターと聖アンドリュ-が描かれている。
このクロワゾネ・エナメルはフランスのリモージュ産が最も有名だが、ビザンティン期のジュエリーの典型的な手法の一つ。

Funeral crown of the queen, Anna of Antioch - Found from the graves of Béla III (1172-96)
12世紀のハンガリー王べラ3世のSzékesfehérvár墳墓から発掘された、
王妃アニェス・ド・シャティヨン(アンナ・オブ・アンティオキア)の、葬儀用クラウン。
細かいシードパールをワイヤーで留めつけるのも、ビザンティン・ジュエリーでよく見かけられる手法。
近頃、私も時たま、自分のジュエリーのデザインに取り入れている^^。

同じくSzékesfehérvár墳墓から発掘されたブレスレット。
これはパール使いとエナメルで、とてもビザンティン的なスタイル。

同墳墓より出土のリング。
グラニュール加工(ゴールドの粒々を溶接して模様にする)も古代から、12世紀ごろまでよく使われた手法。
このクラウン型のリングのデザイン、現代でも使える・・・よく売れそうなデザイン(笑)。

12-13世紀のブローチ。
鳥や花等、細かい細工が特徴的。後の「超デコラティヴ」なハンガリアン・ジュエリーの片鱗がすでにうかがわれる(!?)

Funeral crown from the Margaret Island,Hungarian, second half of the 13c
ブダペストのドナウ河中洲、マーガレット島のドメニコ会修道院廃墟から、発掘された13世紀後半の葬儀用クラウン。

いろいろな角度から撮ってみた。

あまりメジャーでない展示物には、マジャール(ハンガリー)語の表記しか付いていない。
ゆえに・・・これが何か全く不明。
13-14世紀のMorse(モース、聖職者のガウンを留めるクラスプ)ではないかとみている。
それにしても・・・ここまでコテコテの装飾の付いたモースは始めて見た・・・。

それも、一つではなくて・・・、

3つも・・・。

ジュエリーではないが、金属工芸品、Chalice(チャリス、教会で使用されるゴブレット)の装飾も、
折り重なるような装飾・・・。

ディティール。
これをみると・・・いかに当時のハンガリーの置かれていた「ビザンティン由来」の文明・技術が、
高度に発達してたものかがよく解る。
当時は、イギリス、フランス等の旧西ローマ帝国領は「田舎」。ジュエリーにしても「素朴」だとすら感じてしまう。

14世紀のクラウン。これも背景等(葬儀用のものだったのか・・・など)は、不明。

15世紀の聖マーティンのバッジ。
裸同然の物乞いに、自らのマントを剣で裂いて半分分け与えたというシーン。全部あげてしまっちゃー、まずかったのかな?あ、冬で自分も寒かったからか・・・?(笑)などと・・・くだらないツッコミをいれてしまうが・・・。
この聖人さんは現ハンガリーのパンノニア出身なので、ハンガリーとは縁が深い。後年、フランス、トゥールーズの司教として活動し没するので、このバッジ上では司教冠をかぶっている(様に見える)。しかし・・・マントを与える一件は、彼がまだ若き軍人だった時の話。(あ、また、余計なツッコミ・・・)。ともかく・・・・、このバッジというのは、巡礼の記念に聖地で買ってくる「おみやげ物」で、プラスターの鋳型に、錫の合金を流して、鍍金をかけたもの。当時の「量産品」なので、いまでもよく発掘されるとか。

再び「ゴージャス」な方のジュエリーに戻って、これは16世紀のペンダント。
このペンダントは、ルネッサンス・スタイル・ジュエリーの典型。
ハンガリーでは15世紀、マーチャーシュ1世(I. Mátyás)の時代に、彼の二度目の后がナポリ王女だったことから、
イタリア・ルネッサンス文化/様式が、ハンガリーに導入されていったそうだ。
しかし、16世紀にはBattle of Mohács(モハーチの戦い)に敗れたハンガリーは、
ブダペストをオスマン・トルコに占領されることになるのだが・・・。

これも、オパール使いが珍しいが、16世紀のルネッサンススタイル。
裏づけはないが・・・このオパール使い、オスマン・トルコの影響かもしれない。
トルコのジュエリーに、オパールをよく見かける・・・様な気がするので。

ジュエリーではないが・・・1526年のモハーチの戦いで、
20歳の若さで戦死するラヨシュ2世(II. Lajos、英語読みだとLouis,ルイス2世)。
Order of the Golden Fleece(金羊毛騎士団)のチェインを着けている。

16世紀のクラスプ。
ハンガリーの男性貴族のコスチュームには、毛皮のマントがつきもので、
そのマントを留めるのに、デコラティヴなクラスプを使う。
なので、「クラスプ」がジュエリーの中に、頻繁に現れる。これもその一つ。

また別の、16世紀クラスプのディティール。なんとも・・・エキゾティックだな・・・。
次回は、「メイン」の17世紀ジュエリー。ほんとに超派手・・・、お楽しみに。
ハンガリー国立博物館(Hungarian National Museum)
住所:1088 Budapest, Múzeum krt. 14-16
開館:10am~6pm (月曜日 閉館)
入場料: 大人 1100HUF(£3.7)、 子供 550HUF(£1.9)、写真撮影料 2500HUF(£8.3) 2011年春現在。
*撮影料が入場料の倍以上!! しかし、私の場合値段の価値は充分あった。
追加料金取られても、写真を許可してくれるハンガリーの博物館に感謝!!
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